家族の理解

私の怒鳴り声を聞いてはじめはびっくりした顔をしていましたが、そのあとすぐに彼は自分の足元をじっと見つめました。だれかがストップをかけなければいつまでもそうしているのではないかと思われるくらい、彼はうなだれたままじっと「何か」を見つめていました。

いや、その「何か」がどんなものであれ、私は彼がしっかり目を見開いて、なんでもいいから「何か」を見ていてほしい、見ることだけは拒まないでほしいと、そう願いました。

さすがに少し言い過ぎたのかもしれないと、私は少し後悔しました。しばしの空白のあと、彼はうつむいたまま誰にともなく言いました。「家族も・・・家族も俺のことを本当に理解していないんですか?」

彼に伝えた言葉

私は逆に訊きました。「それなら、君は家族のことを本当に理解してる?表面的な理解ではなく、本質を理解しているのか?もし理解しているのなら、君は『不登校』なんていう道は選ばなかったと俺は思うよ

私は言いました。「君は、今まで家族に守られてこれまで生きてきた。でも、いつしか君にも家族ができて、今度は君が家族を守ることになる。そのとき初めて君は、今の君のお父さんやお母さんの『本当の気持ち』を理解することになるんだと思うぞ」

彼は顔を上げて、少しぼんやりした表情で私の顔を見ました。古めかしいクーラーの室外機の音だけがけたたましく聞こえてきました。「今はいろいろつらくて、遠回りしてはいるけれど、君にとってこの経験は今後大きなプラスになる。理解できなくても、理解しようと精いっぱい足掻いてみろよ。何か見えてくるかもしれないぜ」

やがて、保健室登校へ

夏休みを終え、いよいよ勝負の2学期に突入し、気が引き締まるのを感じていました。他の受験生たちは順調に足固めをし、これからいよいよ本格的な入試問題に取り組む時期に入ってきました。例の生徒も、特別何も言いませんでしたが、夏期講習の延長という感じで、2学期に入っても昼間に勉強をしにくるというサイクルは相変わらず続いていました。 しかし、私の知らない間に事態は急転していたのです。

2学期に入ってまだ1週間も経たないときに、彼のお母さんがまたひょっこり教室に顔を出しました。夏休みに1対1で話をしたことに関しても、「正直これで何かが変わるとは思えない」というような否定的な見解をお母さんにお話してはいたのですが、これ以上彼の不登校のことに深くかかわりすぎて他の生徒の受験に影響が出てしまうことを私は恐れました。

何しろ、そういう経験はこれまで一度もなかったから、ただ不安だったのです。するとお母さんは言いました。「先生ありがとうございます」と。

私は何を言いたいのかがよくわからなかったのですが、聞くと、彼は自分から「学校に行くようにする、でも教室には行きたくないから保健室でやる」ということをお母さんに告げたのだそうです。彼はいわゆる「保健室登校」という新しい道を模索したのです。

彼は結局卒業まで保健室登校を続け、定期テストだけは教室で受け、他の生徒同様数値化した成績をもらい、無事都立高校に入学することができました。私の知る限りでは、優秀とは言えないまでも、普通の男子高校生として3年間を過ごしたようです。


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